しばらく出張が続いたため、久々の更新ですが、先日リチャード・クー氏が提唱するバランスシート不況という考え方について、同氏から直接お話を聞く機会がありました。今までの経済学の教科書には書かれていない概念なので、なかなかAgreeという論調がとれなかったが最近はみんな理解してきているようだということでしたが、日本がバブル崩壊以降陥った状況が分かる考え方だと思います。簡単にいうと、バブルとは借金をしてまで、資産を購入、または投機に走った現象です。バブルがはじけると、資産価格は限りなくゼロちかくまで下がりますが、借金はバブル当時のまま残るのです。そうなるとどうなるか?金利がゼロでも借り手は現れず、みんなが借金返済に走ることになったのだそうです。
下のグラフは、野村の資料ですが、バブル崩壊後、日本では、金利がゼロ金利となりました。経済学の教科書では、金利がゼロであるならば、設備投資などをしてもうけに走るというのが合理的だという論理となっています。お金には現在価値、将来価値というのがありますが、金利を払わなくていいのなら人々は投資に走るという論理ですね。しかし、この教科書どおりの現象が実は起らなかったのです。
日本では、ゼロ金利では足りず量的緩和を90年代中盤から行ってきています。下のグラフを見ると分かりますが、マネタリーベース(日本銀行券発行高)が増えてもマネーサプライ(市中に出回るお金)は実はそんなに増えていません。一方で銀行融資(企業や人々が借金する額)はバブル崩壊前にくらべて41%も下がっているそうです。

このことは何を意味しているのかというと、ゼロ金利下で、みんなが借金返済へ走ったということなのだそうです。

上のグラフを見れば一目瞭然ですが、バブル崩壊後マネタリーベースが十数倍にも拡大したにも関わらず、借入金(銀行からの借金)はずーとマイナスだったんです。よくニュースなどでは、貸しはがしなどと言われていましたが、実態はお金を運用するにも借り手がおらず、国債で運用するしかなかったというのが実態のようです。一番上のマネーサプライ(市中に実際に出回った分のお金)は、政府が発行した赤字国債によるものだといえそうですね。
つまり企業、個人すべてが借金返済に走ることで、融資する先が限りなく無くなってしまったということが良くわかりますね。GDPの10%近くが借金返済(バブル崩壊後の資産下落分)にブラックホールのように吸い込まれてしまっているというイメージですね。成長率2%目標だとかいいますが、誰も借金せず、投資がなさらないのならば、経済は、マイナス成長に陥ることは明白です。
企業収益は上がるが、投資には回らない>給与は増えない>消費が落ち込む>モノが売れない>デフレというサイクルになるイメージが付きますが、これがリチャード・クー氏がいうバランスシート不況なのだそうです。
バランスシート不況の回避方法としては、政府が大きな財政出動をし、借金をするこなのだそうです。民間部門が一斉に借金返済に走る中、唯一政府が財政出動できるかがカギなのだそうです。実際日本のGDPはバブル崩壊後そんなに落ち込まなかったそうですが、これは小渕内閣以降の公共投資が大きかったようです。ただ、民主国家では、財政規律の問題等で実はこうした事が非常にやりにくいという側面もあるようです。マスコミなどはこんなに国が借金をしてツケをどうするのだ!という論調が書かれ、世論も怪しからんとなりますが、実は政府が借金して経済を刺激し、成長率を上げ、民間部門がお金をませるようにする方が、バブル崩壊のツケを生産する一番の近道なのだということです。
一方で、中国は共産党一党独裁の仕切りの中で、バブル崩壊危機の局面で60兆もの政府投資が行われました。シャドウバンキングだの、中国バブルが崩壊するといったような先進国アナリストではそうした期待する声がありますが、何度も裏切られてきたのは、中国の官僚がバランスシート不況という概念を理解していたからだということが言えそうです。現在中国は、労働集約型なモデルからルイス転換点を迎え、内需主導の経済構造へと変わろうとしているようです。その中で、つぶすところはつぶす、また中所得者が増えることで陥る罠を回避するためにこれから15年から20年にかけて構造変革を行えるかという点が焦点のようです。中所得者の罠とは世界銀行が2006年の出した概念で、安価な労働集約型の輸出型経済構造から、所得が増えることで、(ルイス転換点を迎える)そのモデルが維持できなくなるので、モデル変換を行えるかどうかという事。モデル変革ができないと、長期停滞に陥るという事です。
20世紀初頭に起きた世界恐慌を経験した資産家は、死ぬまで「もう借金はこりごりだ!」といっていたそうです。バブル崩壊後のこうした心理的な後遺症は、このようにそれを経験した世代が死ぬまで尾を引く代物なのだそうです。私自身に置き換えてもその実感は、共感できるものだと思います。そうした中大規模な公共事業を行った米国トルーマン大統領によるニューディール政策については、ある意味、的(まと)を得た教訓だといえるでしょう。クルーグマンやバーナンキ元FRB議長もも実はこうした過去の教訓をしっかり生かせていないようです。民主国家では難しいのかもしれませんが、非伝統的な金融政策ではなく、実は共産主義的な大きな政府による財政出動が解だった?という皮肉な結論なのかもしれません。実はこの非伝統的な金融緩和を行ってしまった米国やイギリスは、これから経済が挽回する局面で、ハイパーインフレに陥るリスクと隣り合わせになりながらの金融政策運営を強いられることになるそうです。米国出口戦略が早期にうちだされたのも、バーナンキがこのことに気付き「やぱい!」と思ったからなのだそうです。リチャード・クー氏がFRBのお偉いがたさんにこの点について質問したところ、「that matter is not my(our) problem」という答えが彼女から帰ってきたそうです。その彼女ってイエレン氏?などと勘ぐってしまいましたが、これからどうなるか経済ニュースなどをこうした視点でみると面白くなりそうです。次回は、「量的緩和やってしまった日・米・英はこれからハイパーインフレの恐怖と戦わなければならい」という件について紹介させていただきます。
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