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ポンド安でEU離脱した英国の一人勝ちとなる可能性?

2022年09月27日 ネズミ1号:略称「T」
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英トラス首相「7兆円」大幅減税で株・通貨・国債の「トリプル安」…日本も他人事じゃない!

英トラス首相「7兆円」大幅減税で株・通貨・国債の「トリプル安」...日本も他人事じゃない!

こちらの記事では、英国トラス政権の借金頼みの政策で、「ポンド安、株式安、国債売りのトリプル安でヤバくなる」とディスっているようです。

こういうのを読むとこんな愚策をやったらヤバイと思う人が多くなるのかもしれません。

ただ、ヨーロッパでは主にエネルギー価格上昇によるコストプッシュ型のインフレが起きていると言われていて、この対策に5年間で7兆円の大規模減税と高騰する食料品、エネルギー対策に今後半年9兆3000円億円支出するといものです。

この記事では、この政策発表の結果、ポンドは対べドルで37年ぶりの安値を付けることができ、国債価格が下落(金利が上昇)して大変だと論じていますが、別の見方をしてみると違った側面が見えてくるようにも思います。


 

 

ポンド安でEU離脱した英国の一人勝ちとなる可能性?

イギリスは、ご存じの通り、EUから離脱したヨーロッパ唯一の国です。共通通貨はそれなりにメリットがありますが、ギリシャソブリン危機などでは、各国がとりうる金融政策に関する打ち手が少ない点が課題として挙げられました。

新たな首相が誕生して、さっそく打ち出した政策により通貨安となりヨーロッパ諸国の中で「輸入減」・「輸出増」となる富の蓄積ができる構造にまわりから非難されずにもっていくことができたとも言えます。

現在、イギリスが直面しているインフレは、ウクライナ情勢に起因する穀物価格、エネルギー価格の上昇だともいわれています。今年の冬は3倍以上も値上がりしたエネルギー価格によりヨーロッパは冬を越せないといった話も散見されますが、EUから離脱し、ポンド安ポジションにしれっともってこれたイギリスが独り勝ちという見方もできるかもしれません。

行きすぎな円安は悪い論と近隣窮乏化政策(Beggar thy neighbor)

でも触れましたが、通貨安は「失業率」を輸出するような政策ともいわれる有名な理論があるそうで、「輸入減」・「輸出増」という状態になることで、農業を含む国内製品の競争力が増し、海外から輸入されるものに実質関税をかけるような保護政策を実施しているような状態となる訳です。

雇用が守られ、失業率が抑えられるようになるという構造です。

イギリスの雇用は、13%が製造業(鉄道、軍事、自動車、航空分野、また毛織もの等)でGDPの16%、輸出の83%を占めているそうです。

また、食糧自給率は、73%ですが、機械化され農業人口は2%以下という形で集約化されているみたいです。

イギリス経済に占める製造業の割合は、1960年以降下がり続けているということですが、こうした分野のエクセレントカンパニーが膨大な利益を上げて法人税増収が見込めるという点と、雇用を確保できるかもしれないということも冒頭の記事では触れた方がいいようにも思いました。

先進国の中で、日本は食糧自給率が非常に低いですが、続く円安下で、食糧自給率があがり、国内製品をありがたく消費しながら、輸出もできるようになりつつ、「輸入減」・「輸出増」な構造に周辺からクレームされずにしれっと移行しながら人口が減ってもつつましく生活できるようになれるという可能性についてイギリスの政策の短期的、長期的な行く末を見ていくといいのかもしれません。

ちなみに、Forbesの記事では、下記の見出しで、「市場の過剰反応でトラス首相の経済政策はイギリスにとってチャンスだ!」という扱いをしているようですね。

日本語記事と真逆の扱いとなっていますが、こういう点は面白いですね。

Ignore The Market Overreaction: Liz Truss's Economic Plan Deserves A Chance

This morning, the internet was abuzz with news that the British pound had fallen to historically low levels against the U.S. dollar. The pound sterling lost nearly 5 percent of its value in early trading, coming close to parity with the dollar, before ultimately stabilizing.

ポンドが対米ドルで歴史的な安値を付けた。(朝の取引で5%安)

Economists and other commentators around the internet saw this as news that Prime Minister Liz Truss's new economic plan--announced late last week--may be dead on arrival. While there are some legitimate concerns about the plan, upon closer inspection there is also a lot to like for those on all sides of the political spectrum.

微妙な言い回しですが、先週の政策発表で市場が反応しなかったので、あまり効果なかった?という残念な雰囲気がただよっていたけれど、今朝のポンド安の動きをみて、一部の政策担当者はよかったと胸をなでおろしているような感じでしょうか・・。

On Friday, Chancellor of the Exchequer Kwasi Kwarteng announced the terms of what some are calling a "mini budget"--an economic agenda for the U.K.'s new conservative government. The policies receiving the most attention are a 45 billion pound tax cut, as well as previously announced energy subsidies valued at 150 billion pounds.

冒頭の記事では「借金に頼った英国経済政策ヤバイ風」に扱っていましたが、本当は、全然真逆で、英国財務相筋からは、ミニ予算と揶揄されるような政策として議会でその効果を疑われていた雰囲気もあったが・・・というニュアンスでしょうか・・・。

Forbesの記事を見て要旨を要約してみると、ミニ予算と揶揄されるレベルの輸入物価高対策経済政策によりポンド安にもって行くことができて、イギリスにとって低コストで大きなチャンスを得られるかもしれない入り口にこぎつけることができた・・

という感じでしょうか。

その後:

イギリス:トラス首相が辞任することとなったようですが、辞任表明会見では以下のポイントを話しているようです。

I came into office at a time of great economic and international instability.

Families and businesses were worried about how to pay their bills.

Putin's illegal war in Ukraine threatens the security of our whole continent.

And our country had been held back for too long by low economic growth.

I was elected by the Conservative Party with a mandate to change this.

We delivered on energy bills and on cutting national insurance.

And we set out a vision for a low tax, high growth economy -that would take advantage of the freedoms of Brexit.

I recognise though, given the situation, I cannot deliver the mandate on which I was elected by the Conservative Party.

要点としては、混迷が続く政界情勢の中で、長年続いた低成長を止めるという政策の委任を受けて首相となり、光熱費の削減や保険料削減の施策を実現しつつ、減税による経済成長を優先する政策を取ろうとした。

これは、イギリスがEUを離脱(ブレグジット)したことで出来る政策の自由を最大限生かせるものだと認識している。

しかし、現在の政治的な情勢を考えると、当初委任されたことを果たせることができなくなっているので辞任表明するに至った。

国際金融のトリレンマという理論があるそうですが、

自由な資本移動 + 独立した金融政策 + 固定相場性

3つが同時に成り立つことができないというものだそうです。

EUでは、統一通貨ユーロで固定相場制となっているので、独立した金融政策がとれず、ギリシャなど経済力が弱い国はソブリン危機などに陥ったと言われています。

トラス首相は、上記セオリーをベースに、経済成長を促す施策を次々と実行して行こうと青写真を描いていたようですが、ポンド暴落、債券暴落、株価暴落といった目先起きた指標を縦に政権を運営できないまでに押されたしまったみたいですね。

次の首相がどのような方針で経済対策を打ち出し、どのような途中経過となるか、良いケーススタディとなるように拝見しました。



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