fastcolab: ジョナサン・アイブ(Jonathan Ive)氏の伝記本がLeander Kahney氏から出るようです。こちらの執筆者カーネイ氏の対談の中では、破産寸前のアップルがどうのようにプロダクトを作り、ニッチなコンピュータ メーカーから一般エレクトロニクス分野の覇者にまでなったのか?またそれをデザインという観点でアイブ氏がどう重要な役割を果たし、iOS7でハードウェ アとソフトウェアの方向性が統合された経緯が分かる内容となっています。秘密主義のアップル社の内部が垣間見れる内容です。
冒頭で著書は次のように述べています。
「ジョブス氏は自分がイメージするプロダクトや作品を作るためのシステムをどう作り上げ、マネージメントするかという点では天才であった。」
私もこの言葉がスティーブ・ジョブズ氏を適確に表現している言葉だと思います。
ジョブス氏が作り上げた初代マックや、その後アップルを追い出された後に起こしたPixerでの成功、それからアップルに復帰してからのその後の成功を見ると分かると思います。
GUIが生まれてからそれでもコマンドラインを打つ必要があったコンピューターについてデザイナーでも使えるようなインターフェースを作り出し、また3DCGを使った映画で子供をターゲットにヒット作品を作り上げて成功した手腕はジョブズのニーズの捉え方と発想力、またプロダクトアウトするためのマネイジメント力において天才であったちうのが適切だと思います。
「アイブ氏からプロダクトアイデアが生まれたのか?それともジョブズ氏から?」という質問をされた著者は次のように述べています。
「以外かもしれないがジョブズがすべてアイデアを出したかのように思う人が多いと思うが、アップルのヒット商品の多くはボトムアップで生まれたもの。
スティーブ・ジョブズやアップルの重役たちがこれでいこうという随分前からデザインチームではMP3プレイヤーや、iPhone、タブレットのプロトタイプ案を作成していた。」
「ジョブスが直接アイデアを出し、主導したプロダクトはiMacとPowerMacCubeのみ。その他のプロダクトはデザインラボ"Luxo lamp"から出たものだった。一方でティム・クックのオイフィスから出てきたプロダクトについては、ほぼ無いと言っていい。」
「ジョブズは思い通りにいかないとヒステリー起こすような人だったがアイブ氏に対して罵倒したり、いらいらするようなことは無かった。」
「その逆でアイブ氏はジョブに対してぶちきれたことが一度だけあった。スティーブ・ジョブズが唯一認めた人物それがジョニー(愛称こめて)・アイブだった。」
ジョブズと同じ目線で議論ができたアイブ氏の失敗はイコールジョブズの失敗として受け取りアイブ氏を責めなかったそうです。こいつの才能に欠けると絶対的な信頼とジョブズ自信の強いこだわりを受け止めることができたアイブ氏のタッグが今日のアップル社の成功を築いた一つの成功要因とも言えそうです。
以外にもアイブ氏の手法は、ブリーフィング後のデザインスケッチが主体。隔週に開かれるデザインブリーフィングで課題となる問題について、みんなでラフスケッチを行い議論するそうです。複数のスケッチを並べ、絞込み、CADチームへ引き渡し、立体モデリングを実施。ちなみにこのCADチームは15人のメンバーで構成されるそうです。その後CADチームで作成されたモデリングデータは、(CNC)Computer-Numerical-Controlledセクションへ引き渡されてて、具体的なモックアップが作られるそうです。
このプロセスを経て商品の大きさ、手触り、など複数のモックを作り、机に、大きいもの、中くらい、小さいもの、素材がXのもYのものと机の上に並べられれ議論されるようです。
面白いのが、スケッチからとう話でしたが、アイブ氏たちの商品開発は、ほとんどがファクトリーで行われるそうです。スケッチについては初期の段階のみ。それ以降は、ファクトリーにこもり、微細な調整をとことんまで行うというプロセスだそうです。商品開発の90%のプロセスはファクトリーで行われるそうです。
ドキュメンタリー映画「Objectified」より
「アイブ氏はハードウェアデザインが主だったが、ソフトウェアの名手としてのアップル社にとってアイブ氏にヒューマンインターフェースデザインをまかせるのは問題ではないか?」との質問に著書は以下のように答えています。
「ジョブズ亡き後、アイブ氏は生前のジョブ氏が担っていたビジョンを引き受ける器としてみんなが認めている。」
「逆にいうと、一人のパーソナルな人間がこの役割を担い、アイコンとならない事の方が高度にインテグレートされたコンセプトで成功したアップルにとってはリスク。複数の人間が多数決できめるようなプロダクトなどアップル社ではありえないだろう。」
Microsoft社で、ビル・ゲイツが前線から引退した後、起こったことを見るとこの事が的を得ていることが分かるはずだそうです。
ビルゲイツ氏はWindowsに関わるすべての事柄や経営に関わる意思決定についてきめ細かく指示を出し判断していたといわれています。その後CEOについてスチーブ・バルマー氏の失態は、商品コンセプトをきちんと明確に統合・マネイジできなった事と無縁ではないはず。Windows8はすばらしいコンセプトだが、あとからスタートボタンをつけたり、責任者が解任されたりのどたばたをいていると一目瞭然だといえますね。
そして著者は続けます。
「アップル社でもiOS7以前はこうしたリスクがあった。具体的に言うとソフトウェア開発部署とハードウェア開発部署とが相容れない状況(戦争状態)に突入することだ。今ではアイブ氏という強烈な個性のある1人が一つの明確なコンセプトを打ち出し、ソフトウェアとハードウェア両面をディレクションしている。」
「iOS6では、ソフトウェアとハードウェアの調和がもたれていなかった。」
「ハードウェアがシンプルでソフィシケイトされて行く中で、iOS6のソフトウェアは立体的なフリルやフェイクなレザーテクスチャーやキャンバスが実装されていた。」
「iOS6の「スキューモーフィズムと最善か無化とういったミニマニズムを追求していたハードウェとは全然反対の方向にいっていた。ハードウェアの進化が斬新だったので、iOS6時代の考え方は時代遅れ感が出ていたんだ。」
「iOS7の出来は上場だ。それまでのiOSはスキューモーフィズムを追求してきた。一方で、アイブ氏が活躍したハードウェアー分野ではマテリアルオネスティ、言うなれば、時代を経てもかわらぬプロダクトの価値を追求しようとしていた。」
「ソフトウェアとハードウェアは真逆の方向へ進んでいたのだった。」
「それがiOS7で一つのコンセプトとして見事に統合することができたと言える。」
「スマホが生まれない日本。サラリーマン化した発想ではイノベーションは生まれない」でも書きましたが、アップル社の凄さは、これだと決めた先進的なコンセプトや考えについて、組織論をぶち壊し、舵を取れる人間がきちんとマネージメントすることをよしとする企業だということが分かります。
著書曰く、生前のジョブ氏がiOS7の開発についてどれほど関われたかは不明とのこと。
「iOS7に関する多くの要素は生前ジョブズ氏もおそらく目にしていたはずだ。」
「スティーブ・ジョブズはファイナルバージョンのiOS7は見ることが出来なかったが、実は2000年中期に作られらたiPhoneのモックアップOSデザインの中にiOS7と非常に似ていたものがあったそうだ。」
彼が生きていたらiOS7についてもより革新的なものとすべく大胆な改善要望を出したかもしれませんし、今のiOS7とはちょっと違ったものになった可能性もあったかもしれませんね。
「ジョブス氏は自分がイメージするプロダクトや作品を作るためのシステムをどう作り上げ、マネージメントするかという点では天才であった。」-に象徴されるアップル社の遺伝子を今はアイブ氏が引き継いでいるようです。
「現在アイブ氏はクリエイティブなチームを率いるリーダとして適任だ。」
「確かに頭角を現してきている Chris Stringer and Richard Howarthと言ったデザイナーもいるが、アイブ氏のようなリード力があるかは現時点では分からない。」
「ただ、秘密主義のアップル社の中では、アイブ氏に代わる奇才がいつあわられてもおかしくないだろう。」
「現時点のアップル社には、ジョブズ無き後も、ジョブズが築き上げた最善のプロダクト作り上げるシステムは残っている。ジョブス氏のDNAを引き継いでいるといえるアイブ氏がアップル社を去ってしまった時、このシステムが引き継ぐことができるかはわからない。」
「また、逆にいうと、アイブ氏を含めたアップル社のデザインチームを根こそぎ引き抜かれたとしても多分機能しない。」
「なぜならば、経営者含め企業がデザイン・コンセプトオリエントなメンタリティを持つことができなければ、ジョブズのシステムは機能しないからだ。」
「普通の企業で強烈な一人のアイコンによりハードから、ソフトのコンセプトについて一つのビジョンでインテグレートしリードし続けられるような組織はそうは、ないだろうから。」
若干長文となりましたが、2000年中盤からアップル社がどのように現在の地位を気付き上げてきたのか、またスティーブ・ジョブズ、ジョナサン・アイブ、ティム・クック3人の絶妙な役割分担と経営のコンビネーションについては、いろいろ参考にできそうなところが多々ありそうですね。
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